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2018年02月26日

言葉の因数分解 1

その放送局毎、あるいは会社毎に
若しくはそれぞれのアナウンス部・報道部で
「使わないようにしている言葉」もあると思います。

ABSのアナウンス部では「上下線(じょうげせん)」
がそれです。用いないようにしている言葉です。

交通機関のニュースで特に鉄道路線で登場する言葉で、文字通り
秋田から東京に行く電車「上り」と
東京から秋田に来る電車「下り」を指しています。

「台風の影響で新幹線は上下線とも運休です」

てな感じで、他局のニュースでは、よーく出てきます。

田村は新人の頃、
「上線(じょうせん)と下線(げせん)じゃないんだから
 上下線と言わないように」と教わりました。

新人の頃は「ふうん」という程度しか思いませんでした。
ある程度、自分で考えて判断出来るようになった頃には正しかったと思えるようになりました。

解説はのちほどにして
まず「上り」「下り」をひとまとめにすれば
「上下」となって文字数も少なく、音数も少なくなります。

なぜこんな表現が登場したのかというと、数学の因数分解です。
因数分解というのは中学校3年の数学で習う“あいつ”です。

例えば xy + xz という式があると
共通の「x」を前に出してコンパクトにできます。

xy + xz = x(y+z)

左から右が因数分解で、数学の手法のひとつです。

この考え方から

上り線+下り線 =(上+下)り線
≒(上+下)線
≒(上下)線
= 上下線

になったと推察されます。

「上り下り」だと文字数で4文字 音数で6音
これを「上下」にすれば
文字数が4文字→2文字
音数は 6音→3音に短縮出来ます。
便利 且つ 省スペースで「上下」が広まったのではないかと思いますが…

片方の路線だけだったら
「上線のこまちは…」「下線の男鹿線が…」と
言わず
「上りのこまちは定刻通り…」
「下りの男鹿線が運休しました」と
きちんと「のぼり」「くだり」を使用します。
「じょうせん」「げせん」という言葉は出てきません。

似たような因数分解された言葉で
未だに気持ちよく言葉を発する事が出来ない言葉が
「忘新年会」「利活用」です。

忘年会+新年会=(忘+新)年会 → 忘・新 年会

コマーシャルは1秒でも時間を短縮させ、多くのことをPRしたいという意識が働きますし、12月に新年のこともPRしたいのでこういう流れになったと思われます。

「忘年会・新年会プランも充実」
「忘新年会プランも充実」では平均0.2秒の差がありました。

また 利用+活用=(利+活)用 → 利・活 用
も嫌いで、個人的に使いたくない言葉のひとつです。

新人アナウンサーだった頃「利活用」という言葉に耳馴染みが無かったので、気持ち悪くて訴えたのですが、大先輩の某アナウンサーには
「え~普通に使うしあまりおかしいと感じないよ」と一蹴されました。
利用も活用も違いはそんなにないんだから「活用」だけで済ませればいいような気もします。
もしくは
「スタジアムの利用・活用を探りたい考えです」のように、併記すれば済むと思っています。

閑話休題、じゃあ、なぜ「上下線」が嫌いなのか?
使わない理由は?の部分を考えました。

上り下りのように 上(うえ)と下(した)の2種類があり
両方をセットで使う言葉は無いかと考えたとき
「床上浸水」「床下浸水」がヒントになりました。

「床上下浸水(ゆかじょうげしんすい)」って使うかというと使わないし、違和感ありまくりです。

上半身+下半身 = ×上下半身 ○全身
上水道+下水道 = ○上下水道 ○水道(上水道が主だが)
上半期+下半期 = ×上下半期 ○1年

上級生+下級生 = ×上下級生 ○同級生以外

上座 +下座  = ×上下座  ○席
上巻 +下巻  = ○上下巻  △全巻
上院 +下院  = ×上下院  ○上下両院(米議会)
上新城+下新城 = ×上下新城 ○新城地区(秋田市)
上北手+下北手 = ×上下北手 ×北手地区(秋田市)
上院内+下院内 = ×上下院内 ○院内(湯沢市)

半分冗談も含まれていますが、読み方が「じょうげ」じゃないのに
括ったときに「上下」になるものは思い浮かびませんでした。

やっと結論です。

『元の言葉に「じょう」「げ」が入っていないのに
 まとめたときに「じょうげ」にしちゃうのは違うんじゃないの?
 「ゆかじょうげしんすい」って言わないでしょ。
 だから「上り」「下り」で読みます』

って言ったら、妙に納得したデスクも過去にいました。

上り下りでなんでこんなに長々書いてるんだよ、という声も有りますが、
実は十数年前のこと、アナウンス部に、田村が入社するずいぶん前のアナウンス部長だった 児玉光雄さんから電話がかかってきました。
そのとき、雑談で

「私はニュースでよく言ってる“上下線”が、いまも気になってねえ~」と
ぽろっとこぼされたことがあります。

その時
「大丈夫です、ABSだけ、今も 上り・下りできちんと放送しています」
と伝えました。

それ以降です。
田村の「上り下り論」には、
アナウンス部OBの大先輩に対する責任感もついてまわっています。

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