番組審議会リポート|
PROGRAM COUNCIL REPORT
第646回番組審議会が2月29日、秋田放送で開かれました。
合評番組は「貞蔵さんの割れた尺八 ~シベリア抑留1000日 命を紡いだ尺八と民謡~」でした。
委員からは
過去の貴重な映像の数々から、戦後の秋田民謡が隆盛するさま、民謡王国と謳われた理由がよく分かった。同時にコロナ禍を経て、民謡を生業としている人の苦労・葛藤が描かれていた。民謡が廃れ行き、このままなくなってしまうのは寂しい。生き残りのために何かできることがあれば協力したい。
唸る尺八。冒頭の演奏シーンで慄えを覚えた。藤丸貞蔵の人生を取り上げつつ、番組には多くの登場人物が存在する。茂木空さんが貞蔵と同じ年ごろでプロ歌手を目指す。三味線奏者・浅野修一郎さんは秋田民謡長期低落の現状・将来への不安を抱え、貞蔵の過去の苦境に重なる。登場人物3人がそれぞれ同期して成立させていた。
高橋優のナビゲーターはよかった。メッセージ色が強い高橋優の歌と貞蔵の尺八に込められた悲しみや怒りはシンクロしている。民謡は民族のアイデンティティ。なくなってしまうのか、どのようにして未来へつなげるのか。考えさせられる番組だった。
シベリア抑留から帰ってきた元兵士に対し、レッドパージがあったことを初めて知った。大変な苦労を強いられやっと帰国したかと思えば共産主義者のレッテルを貼られ、いわれのない差別を受けた。この人たちはどれだけの苦悩を抱えていたのか。シベリア抑留者の証言は重く、短い尺での紹介は勿体なかった。
貞蔵の人生だけではなく、今を生きる民謡関係者のエピソードが細切れにはさまれていて、いまひとつ物語に集中できなかった。情報も多く、内容の交通整理が必要ではないか。
所々で紹介される貞蔵の手記に興味をひかれた。映像で見せてほしかった。番組には多くの内容が盛り込まれており、構成が難しかっただろう。また、ウクライナの戦場シーンはなくてもよかったのでは。
民謡とは作業唄であり民の歌。民がいなくなったら、仕事がなくなったら、民謡は消滅するのか。伝統芸能でもないため守る義務もない。しかし自然に任せてこのまま放置していいのか。そうしたはざまに立脚している番組だ。制作者が身内だからこそ、手記の紹介など重要な素材が提示されるなど、番組にパワーを与えていた。
なぜこのタイトルになったのか。多くの問題提起が焦点を拡散させてしまった感がある。民謡のほかに、茂木さんからは労働の、浅野さんからは事業承継の問題が垣間見える。それぞれがひとつの番組となりうる要素が重なり合い、それに加え貞蔵の人生を追うことで、戦前から現在に至る時間軸の行き来もある。多くの要素が盛り込まれているが、そこで得られる効果と損なわれる効果がある。その視点で再度の検証が必要ではないか。総花的な展開から、深堀りする展開を望む。今日の意見を参考にして、ぜひもう一度作り直してみてほしい。 といった意見がありました。
第645回番組審議会が12月11日(月) に秋田市のホテルメトロポリタン秋田で開かれ、今年1年間の番組審議会を振り返っての総評が行われました。
委員からは
取材対象者との関係の積み重ね、継続性、つながりがベースとなって制作された番組が印象的だ。番組は一朝一夕には作れるものではなく、継続性を維持するのも簡単ではない。
取材対象者との信頼関係があるからこそ実現できているのだと思う。
また、バラエティ番組では工夫があって、秋田関連の新しい人材(タレント)を発掘していた。
以前と比べて自分のテレビ視聴時間は減っている。しかし毎月合評番組を見るたびに学びや気づきがあったり、やさしさが伝わったりする。今はSNS全盛だが、テレビやラジオのメディアとしての信頼性は高い。1回の放送では勿体ないので、良質な番組をオンデマンドで視聴できるような仕組みがあればいい。
番審の合評番組を見ていると、採算性より、ABSのプライドや矜持を優先して制作されているように感じる。コストパフォーマンスが高いことは大事だが、両立は簡単ではないのだろう。近頃SNSの動画を見ることも増えたが、番組審議会の合評番組はSNSより心に残る。ABSには頑張って今のスタイルを貫いていきながら、ABSだからこそできる番組を作っていってほしい。そうすれば自ずと道は拓け、今後も関心を持ち続けられるのではないか。
五城目町の馬場目ベース10年の歩みを取り上げた番組は希望を感じることができて良かった。伝統の維持に奮闘している竿燈会の皆さんを描いた姿も印象に残っている。百キロマラソンも、毎回様々な人間ドラマに心動かされる。一方でバラエティ番組を批評することは自分にとっては難しい。しかし、番組を見ることで無関心だった事柄に新たな興味が湧いたり、知識を得ることができる。テレビのメディアとしての役割はそういうところにあると思う。
以前、小田野直武、藤田嗣二などを扱ったドキュメンタリーや、古四王神社をテーマにした番組があった。重厚感ある番組をまた見たいものだ。
制作者の意図をいかに視聴者に伝えるか、というレベルが年々上がってきている。制作者の番組説明でもそれを感じる。若い人も増え、伝えたいことが以前に増してクリアになっているのだろう。構成・演出・編集の工夫があり、わかりやすく伝えるために、頭をひねって制作していると想像する。せっかくいい番組を作っているのだから事前に番組内容を全社員規模で広報・営業するような体制になることをお勧めしたい。
クリエイターにとって、生成AIの脅威が論じられているが、生成AIの情報とは、ネット上にあるものだ。ネットでカバーできない創造物や情報や知識はたくさんある。その生成AIの盲点を見逃さず、自分なりに研究することが大切。放送や番組もその点を意識することがこれからの創作のヒントになるのではないか。
といった意見がありました。
このほか、SNSと番組の連携、海外に向けての発信、社内放送現場の人的交流などについて話し合われました。
第644回番組審議会が11月20日、秋田放送本社で開かれました。
合評番組 秋田放送開局70周年記念特番「廃校から10年 ~まちおこす、拠点~」
ABS テレビ 11月5日(日)16:00~16:55
委員からは
10年の歩みがまとめられており、成果や現状がわかりやすく伝わった。県外から来た若い方が自分事として町で活動するさまを見ていて前向きな気持ちになった。他にも町民が起業したり、第一次産業(農業)までも巻き込んだ取り組みがあったりと、10年の時を経て幅広い活動につながっていた。
明るい未来を予感させるエンディングで、これからの動きが楽しみになる構成が印象的だ。
10年間で人材育成が進み、いろいろな店舗や施設が出来上がっている。
地域活性化のためには、人材と人の交流・地元の人の支援が不可欠。外から来た人の知恵と行動力も重要な要素だ。
町は2度の大雨被害に遭っているが、移住者が自然と共生していくことの大変さを忘れてはいけないと思った。
何もしなければ限界集落になる地域が県内にはあちらこちらにある。そんな中、一条の光が差したような番組だった。
少子化は避けられないが、過疎地域になっても地域で助け合い協力し合えば生きていけるというヒントを貰った。思い返せば昔はみんなそうだった。コミュニティの在り方が昔に戻りつつあるのかもしれない。見ごたえのある番組だった
時間の積み重ねが大きな特徴になっている。映像・人・状況について、10年のスパンがあるからこそ見えてくるつながりがある。前半で紹介されたエピソードが後半で展開され、年月や状況の変化が伝わり、興味深かった。
五城目はこの10年で通過する町から、訪れる目的のある町へと変貌した。
登場人物がみな魅力的。 畑澤與左右衛門さんは五城目町になくてはならない人だ。町の特色や伝統を若い人へ伝えるという大切な役割がある。一方、地元で育った若者がバイタリティ豊かで変化を恐れない移住者の考え方や経験に触れるのはいい刺激になる。
大雨被害の時も、県内外から150名を超えるボランティアが集合し、馬場目ベースが生活再建の拠点になっていた。稲刈りや復旧作業を手伝っていたがこれはまさに10年の積み重ね。人々のつながりによって、迅速に復旧作業が進んだのだろう。
青谷明日香さんのナレーションや「帰っておいで」という挿入歌も番組の雰囲気にぴったりマッチしていて好感が持てた。ドローンなども駆使し、季節ごとに撮影した四季折々の町の風景が美しく映し出され、見事だった。
拠点ができたことにより、具体的にどの程度町が活性化し、効果があったのかを知りたかった。役場の人はどう感じているのか。
移住者について、大人の感想だけでなく親と一緒に移住してきた子供の感想も聞いてみたかった。
番組では成功例を取り上げていたが、失敗例もあるだろう。そのような事例を取り上げあればリアリティも生まれ、番組により奥行きが出たと思われる。