【参院選】歴史的な大敗を喫した自民党…秋田県選挙区で自民党候補はなぜ敗れたのか 半年間におよぶ取材から読み解く背景
今回の参議院選挙で歴史的な大敗を喫した自民党。焦点となった1人区で東北は1勝5敗と大きく負け越し秋田県選挙区でも議席の奪還はかないませんでした。
自民党といえば
①政権与党としての実績と信頼
②企業・団体などの盤石な組織票
③張り巡らされた後援会組織
などを背景にこれまでゆるぎない体制で選挙に臨んできました。
今回秋田県選挙区で自民党候補はなぜ敗れたのか。
半年間におよぶ取材からその背景を読み解きます。
■知事選のしこり 第一声でも
中泉松司氏
「もう一度私を育ててくれたふるさとのために働かせてください。そのためには皆さんの力が必要です」
参議院選挙が公示された今月3日。
中泉松司氏の第一声には、自民党の国会議員や県議会議員、それに自民党を支える企業や団体のトップが顔を揃えました。
候補者の熱意と覚悟を有権者に示す第一声。
選挙全体の空気を左右する、極めて重要な演説と位置付けられています。
その輪に加わらず遠くから演説を眺めていたのは自民党の原幸子県議会議員です。
原県議は今年4月の県知事選挙で敗れた猿田和三氏を支援していました。
■中泉氏の懸念 保守分裂
さかのぼること半年前の今年1月。
自民党秋田県連は、知事選の対応を巡って自主投票を決定しました。
御法川信英県連会長
「知事選挙は知事選挙として戦いますけれども、参議院は政党・国政選挙ですので、こっちはしっかりまとまっていこうということで」
県議団が真っ二つに割れる状況に中泉氏は強い危機感を示していました。
中泉松司氏
「(保守分裂選挙の)直後に選挙を控えているっていうのは、正直言っていろんな場面で言葉を選ばなきゃいけないですし、行動も制限される部分もあるので非常に厳しいなと率直に思いますが、こればっかりはどうしようもない話ですので、なんとかそれを乗り越えていくしかないなと思っています」
■自民党への逆風
加えて選挙期間中に浮き彫りになったのは、自民党への激しい逆風でした。
選挙戦2日目の今月4日、中泉氏と20年近い交流のある小泉農林水産大臣が応援に駆け付けました。
しかし人の集まりはいまひとつ。
小泉農水相
「消費者のことばかりしか考えていない 生産者・コメ農家いじめの小泉進次郎だと」「小さい農家を見捨てる小泉進次郎 そんなわけないじゃないですか」「これから仮に過半数割れをしたときに起きる政治の現実というものを考えた時に我々反省しなきゃいけないところもある。変わらなきゃいけないこともある。だけど謙虚になってこれだけ言えるのは少なくとも我々は一番ましだと思う」
JA秋田県青年部協議会 金子勝洋副委員長
「コメの値段・市場に介入してきているのはどうなのかなと思います。コメの安い時に誰も助けてくれなかったのになぜ高くなるとこんなにも私たち苦しい思いをしなければならないのかなと」
■参政党 旋風
一方、今回の参院選で台風の目となった参政党。
神谷宗幣代表の演説には小泉大臣を上回る約500人が集まりました。
参政党 神谷宗幣代表
「ぜひ皆さん気持ちを上げていきましょう。全体的に日本のそして政治に関わってください。政治は汚いですよ。潰しあいですよ。人の汚い部分いっぱい見えます。でも誰かがこの道に入って、理念立てて、まっすぐに方向性を立てて、みんなを引っ張っていかないと日本が沈む。だからその牽引役を、牽引役の1人にみなさんもなってください。一人ひとりの力は微力ですけども無力じゃないですから。みんなが集まれば自民党を脅かすこともできるんですよ!我々で!!」
「せーの 1・2・参政党!」
■東北苦戦の背景
今回の参院選で焦点となった全国32の1人区の勝敗。
自民党は半数以上で敗れ、東北で議席を獲得したのは福島だけでした。
自民党元青年局長 鈴木憲和衆議院議員
「この横手市、豪雪地域ですよね。少数派の豪雪地域の気持ちを私たちのこの国の政策を少しでも豪雪地域寄りに寄せていく」「自民党が苦しい時、逆風の時、それでも秋田からは中泉さんをあげていただける、そのことがこの地域の力に必ずなります」
中泉氏の応援に訪れた山形県選出の国会議員は、自民党への逆風について人口減少や過疎が急速に進む東北ならではの要因があるのではないかと分析します。
自民党元青年局長 鈴木憲和衆議院議員
「東北はいつも自民に対して、決して全面的に推してくれるという感じではないと思っているんですよ。それはやっぱりうちの地元(山形)もそうですけども東北からいろんなことが東京に吸い取られているっていうこともあるんじゃないかと思いますし」
■知事選のしこり
逆風が吹き荒れる中、中泉氏を積極的に支えたのは、4月の知事選で鈴木知事を応援した県議でした。
小野一彦県議
「いまこそ秋田の農村から日本を変えていきましょう」「よろしくお願いします!ありがとうござます!加藤先生も一言!」
県連副会長 加藤鉱一県議
「中泉松司、東由利の皆様に立候補のご挨拶に参りました」
県連副会長 加藤鉱一県議
「知事選の時は自民党が割れたんですけど」「(参院選は)一体となってやるということで、きちっと体制になってきましたので、私はそのあれ(心配)はないと思います・・・ほとんど」
しかし、この言葉とは裏腹な状況が垣間見えたのは選挙戦10日目。
予定されていた街頭演説を行わず、中泉氏の選挙カーは足早に横手市雄物川町と平鹿町を後にしました。
自民党の選挙では、地方議員が先導したり選挙カーに同乗したりするのが通例ですが、この日、横手市選出で猿田氏を支援した重鎮の柴田正敏県議の姿はありませんでした。
中泉松司氏
「横手なんで・・・頑張んなきゃいけないっすね・・・」
取材メモ (自民党県議)
「知事選の禍根が残っていない前提で勝負したつもりだったけど温度差は選挙前も最中も非常に感じる場面があった」
■農業票の離反
そして、陣営としてもっとも注力したのが1955年の結党以来自民党を支えてくれた農業票を固めることです。
しかし、コメの価格の下落を心配するJAからは小泉大臣への強い警戒感が示されていました。
JA秋田中央会 小松忠彦会長
「小泉農相がいままでやってきたのは価格を安くする安ければいいという感じの方で」「安ければいいという追求は、結局最後(生産者が)誰もいなくなるという現実を直視してほしいなと思います」
選挙期間前に開かれた秋田市での決起集会。
中泉氏が顧問を務めるJA青年部から横断幕が手渡されました。
青年部
「この旗に若手農家としての応援の気持ちを寄せ書きという形で集めました。私たちの農業へ未来への思いをこの旗とともに中泉さんに託します」
寄せ書きの中には「大臣のワンマンを許すな」というメッセージも。
中泉松司氏
「この方々は若くして県内で一生懸命農業をやっている方々なので、農業で言えば先輩と思っていますから、そういう方々の期待・不安というものを応えられるように、払しょくできるように頑張らないといけないと思います」
小泉大臣が秋田に入った翌日。
秋田市内のホテルで開かれたのは、JAの組合長らと自民党の農水族のドンと呼ばれる森山幹事長との意見交換会です。
取材メモ (自民党関係者)
「小泉大臣が来た翌日に森山幹事長と会うというタイミング・順番が大切」
森山幹事長
「農協は農村集落を維持するためにいろんな事業をしています」「農村集落の維持のために努力をしていることも正しく評価をされなければいけないのだと思います。そうすることが食料の安全保障を確かなものにしていく原点であることを忘れてはいけないのだと思います」「なんとしてもみなさんのお力で中泉さんを参議院に送って頂きたい」
JA秋田中央会 小松忠彦会長
「すごく農協のことを良くわかって頂いてありがたいという思いです」
■総理応援は失敗
選挙戦が終盤に差し掛かった今月14日。
中泉氏を応援するため大仙市を訪れた石破総理大臣。
演説会の前にセッティングされたのは地域農家との懇談でした。
コメ農家
「いま農業者は、特にコメ農家は、あすの未来あるコメ生産に向けて本気で戦っています。石破総理の言葉をあえて拝借するならば、『なめられてたまるか』ってことです」
参加者が意見を表明した後は、石破総理が延々と自身の考えを一方的にしゃべり続けるだけでした。
石破首相
「すいません感想めいたことで恐縮です」
その後の演説会では、場所や銘柄米の品種を言い間違えます。
石破首相
「最近この大館(会場は大仙)でもクマが出るらしい」
「そして秋田美人(正しくはあきたこまち)がそうですサキホコレがそうなのですが・・・」
取材メモ(意見交換会の参加者)
「総理は秋田まで言い訳しに来たんだなと思った」
取材メモ(中泉陣営関係者)
「農業団体のトップから『総理の応援は失敗だったね』と言われた」
■自民党は大きな岐路に
そして迎えた投票日。
中泉松司氏
「本当にみなさんの期待に応えられなかったことに、改めてただただ自分の力不足無力さを感じる次第です」
自民党が逆風のときでも基礎票・固定票だった「農業票」。
極めて重要視されながら今回の参院選で固めきることはできませんでした。
JA秋田中央会 小松忠彦会長
「小泉さんがやっぱりどうしても消費者サイドの目線しかなくて、生産側の目線が足りなかったなと思うので」「小泉さんに対抗できるのは中泉さんしかないよと話をしても『自民党だからね』って声が聞こえてくるのでそのあたりが難しかったんじゃないかな」
自民党を支えた世代が高齢化し、若い世代が主張の明確な野党に流れる中、自民党の選挙戦術は大きな岐路に立たされています。
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今回の参院選、県内では保守分裂となった知事選の影響が色濃く残る中、自民党に対する逆風が吹き荒れました。
公示直前の今月1日、大仙市で開かれた中泉氏の決起集会では、収容人数約500人の会場にも関わらず、集まったのは100人程度で、県の南部での苦戦が特に予想されました。
このため、陣営は石破総理の応援演説を大仙市で行い、『テコ入れ』を目論見ましたが、農家との対話で総理が一方的に発言したり、「あきたこまち」を言い間違えたりするなどして支持者からは落胆の声が聞こえてきました。
続投を表明した石破総理に対し、党本部の役員・閣僚の一部、そして全国の地方組織から退陣を求める声が高まっています。
秋田県連の青年局も23日リモートで開かれた緊急の全国会議で「退陣」を要求したということです。