【特集】変わることなく続く五穀豊穣への願い…農家の信仰を集める神社が標高777mに その意外な歴史とは 秋田・湯沢市

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秋田 2025.08.13 18:09

いわゆる‟令和の米騒動”に政府備蓄米の大量放出、さらに減反から増産への方針の大転換。

コメを取り巻く状況が目まぐるしく変わる中、県内の生産者はこの夏、記録的な高温と深刻な水不足に見舞われました。

状況の変化に翻弄されながらも変わることがないのが、五穀豊穣への願いです。

湯沢市には豊作を願って県内各地の農家が足を運ぶ神社があります。

神社があるのは標高777メートルの山の中。

令和7年の今年、信仰の意外な歴史が明らかになりました。

県南支局髙橋勤記者のリポートです。

♢♢♢幸せを運ぶ山 東鳥海山

湯沢市の南部に位置する東鳥海山です。

きれいな三角形の稜線が目を引くこの山は地元で「権現山」と呼ばれ、親しまれてきました。

先月7日。

「東鳥海山は幸せを運ぶ山です。777メートルですので」

東鳥海山の標高は777メートル。

令和7年7月7日に777メートルの山に登る。

地域の活性化につなげようと、地元の住民や山岳会などの有志が登山イベントを企画しました。

「5、4、3、2、1、発射」(花火)「はい出発よろしくお願いします。みなさんいってらっしゃい」

スタートした時間はもちろん、午前7時7分7秒。

北は北海道、南は福岡まで、県の内外から250人を超える人が参加し、山頂を目指しました。

湯沢市から
「やっぱ7が並んでるっていうなかなかこういう年がないので」
横手市から
「やっぱ777の記念になるかなと思ってはい」

参加者は広大な田園風景が広がる眺望を楽しんだり、ユニークな形の木と写真を撮ったりしながら思い思いのペースで歩を進めました。

登山開始から約2時間。

「はい、お疲れ様です。ありがとうございます。お疲れ様でしたー」

標高777mの山頂に到着。

思い出に残る登頂を果たしました。

「せーの、777いえーい」

♢♢♢豊作祈願の”信仰の山”

農家の間では五穀豊穣などを祈願する信仰の山としても知られている東鳥海山。

「標高777m~」

山頂の手前にあるのが東鳥海神社です。

豊作を祈願し古くから農家が参拝に訪れているといいます。

機械化されるまで、多くの工程が手作業で行われてきたコメ作り。

特に人手がかかる田植えには農家同士の助け合いが欠かせませんでした。

各農家の田んぼを地域の人たちが渡り歩きながら、協力して田植えを行いました。

コメの作柄は、その年の天候に大きく左右されます。

現在のような天気予報がなかった時代、冷害や水不足などの異常気象に見舞われた農家にとって最後の手段が神頼みでした。

本殿がある山の麓、湯沢市の相川地区に東鳥海神社の拝殿があります。

東鳥海神社 田村周子さん
「ご覧になっていただいて分かるように、県内各地いろんなところからこちらの方にお参りに来ていただいております」

拝殿の壁には県内各地の農家が奉納した板が数多く残されています。

当時は最寄りの駅から農家が列をなして参拝に訪れたといいます。

そして拝殿の脇にあるこちらの座敷では…。

東鳥海神社 田村周子さん
「なおらいをされていた座敷となっております。時間をずらしてみなさん来られてわいわいにぎわって帰るというかたちで行われておりました」

新型コロナウイルスの感染拡大前までは、参拝後に農家が座敷に集い、旬の山菜などをふんだんに使った精進料理でお神酒を飲み交わしながら田植えの労をねぎらい合ったといいます。

今年6月、毎年参拝しているという、横手市の農事組合法人のメンバーの姿が神社の境内にありました。

行っていたのは壁に打ち付けられた板の調査です。

数字の7が並ぶ令和7年7月7日を1つの節目と捉え、神社の歴史を記録に残したいと考えました。

「明治34年かな?」「1345「河辺郡雄和町」

調査の結果、板は明治から令和のものまで300枚以上に及び、秋田市の雄和地区や由利本荘市、山形の庄内からも農家が訪れていたことがわかりました。

♢♢♢半夏生

先月1日。

夏至から11日目の半夏生と呼ばれる日です。

半夏生は、田植えを終える目安の時期とされ、農家はこの日に1年の五穀豊穣を祈願する習わしがあります。

今年は横手市、大仙市、それに由利本荘市など、県南地区を中心に県内各地から農家が参拝に訪れ、えびす俵などを奉納して豊作を祈願しました。

農家 横手市から
「ここさ何十年も来てる、うちの父の代から」「ここさ来て拝まないことには始まらない、我々にとっては」
農家 大仙市から
「農業の神様ということで、ずっと家の前の代から続いているので、それを引き継いでやっています」「豊作になって農家が元気になってくれればうれしいなと思います」
農家 横手市から
「何と言っても、もう豊作ということをお願いして今年も景気が良くなるようにお願いして」
農家 横手市から
「ここにお参りできたことを感謝しまして、また普段の農作業に励めればいいと思います」

時代を超えて農家の信仰を集める東鳥海神社。

この夏、イネの穂が出始める大切な出穂期に、県内の生産者は記録的な高温と深刻な水不足に見舞われました。

今月9日、半月ぶりとなる恵の雨のあと参拝者のひとりが向かったのは穂が出たばかりの田んぼです。

樽見内営農組合 渡部一男 代表
「やっと雨がきたということで、きょうここにそのお礼とこれからの豊作を祈って東鳥海神社からいただいたお札を水口に納めたわけです」「少しでも稲作が安定して私たちが安心して暮らせるように願いをいつまでも」「先人に見習って続けていきたいというふうに考えております」

いわゆる‟令和の米騒動”に政府備蓄米の大量放出、さらには減反から増産への方針の大転換。

コメを取り巻く環境が目まぐるしく変わる中、豊作への切なる思いが託された神社の札は、収穫の秋まで水田を見守り続けます。