【特集】相次ぐ市街地への出没…秋田県のクマ対策 最前線を取材 人の生活圏への進入を防ぐために必要なことは?
人が襲われるリスクが増す、市街地へのクマの出没。
先月、対策を担う県の担当職員と専門家の現場視察にカメラが同行しました。
県が進めようとしている市街地のクマ対策。
その最前線を取材しました。
先月下旬。
鹿角市花輪の市街地で、専門家たちが、クマの出没地点をたどっていました。
5年前、クマの研究者から県のクマ専門職員に転身した、近藤麻実さん。
クマの市街地への進入をどう食い止めればいいのか。
知り合いの研究者たちにもアドバイスを求めました。
近藤麻実さん
「これはうまく使える障壁なので、なんとか使う手を考えた方がいいと思っているんですけど、どう使うか、現実的な使い方、持続可能な使い方が何なのか、こういう開口部をどうするか」
森林総合研究所 東北支所 大西尚樹さん
「開口部を渡るのとこっち(フェンス)を乗り越えていくのだったら開口部の方が多い?」
近藤さん
「と思います」
大西さん
「そうだよね」
市街地での目撃が相次ぐ鹿角市。
クマの進入経路を調査するため、近藤さんは、センサーカメラを各地に設置しました。
すると、高速道路をまたぐ橋や、くぐるアンダーパスを使って、市街地に向かうクマが何頭も映し出されていました。
近藤さんは、市街地に沿って南北に走る高速道路とフェンスをうまく使って対策すれば、クマの進入を抑えることができるのではないかと考えています。
信州ツキノワグマ研究会 岸元良輔さん
「(市街地に来るクマの)モチベーションというか、誘引物っていうか、行きたいものにすごく執着していると、いろんな努力してもかなり難しい」
近藤さん
「そうですよね。 ただ、向こう側の果樹園はだいぶ電気柵の対策が進んでいて。 向こう(市街地)に行ってあるものって、そんなにいいものがないんですよね。中学校にも来ますけど、中学校にもおいしいものはないし、もう何しに来たっていうので困っている」
大西さん
「岸元さんの言うのもね、その通りだと思うんだけど、例えばここにグレーチング(格子状のふた)を置きました。という時に、今ここに写っているような、去年まであっちに行っていた個体は、ここが通れなくなったら、こっち(フェンス)を乗り越えていくと思うんですね。でも、新規に向こう(市街地)に行く個体は防げる。だから、5年ぐらい、これから5年ぐらいかけて徐々に減ってくる」
近藤さん
「どうしても行きたい何かがあれば、どこかを迂回してその通りだと思います」
大西さん
「そこは本当に気になるんだったら、向こう側に罠をかけて、今渡っている個体を捕ってしまって」
近藤さん
「あそこ(市街地)を行動圏の一部にしちゃっているのは、もう申し訳ないけど、もう(安全面から)許せないので、社会が許容ができないので、申し訳ないけど、ここから向こうに出ていたものは捕るっていう、そういう考え方で」
森林総合研究所 中下留美子さん
「クマの方が人よりも柔軟で適応能力が高いというか、人はなかなか生活を変えられないけど、クマは本当に隙あらばというか、どんどん適応していって、上手というか、人がクマを山に押しとどめておく力がもうなくなってきちゃったっていう。なんとかしたいけどね」
市街地対策を進める近藤さん。
近藤さんは、おととしの大量出没を経て、クマとヒトとの距離感がさらに近づいてしまったと考えています。
近藤さん
「やっぱりすごい柔軟ですよね、クマはね。(おととしの)大量出没を経て、ぐっと集落側にクマが寄った。しかももうそこからちょろちょろ出てくるようになったっていうのも、(あの)1年で変わったなっていう気がするので、ここの対策がね、うまくいけば、クマもすんなりすんなり足が止まってくれるといいんですけど」
「住宅地の中で、やっぱりいくら法改正になったとしても、やっぱり家が混んでいるところでの発砲は難しいのは変わらないので」
「町の背後の山(にいるクマ)の密度を下げていくっていう、そういう努力が必要だなというふうに思っています」
相次ぐ市街地へのクマの出没を受けて、県は、今年度から5年間のクマ管理計画で新たな方針を示しています。
近藤さん
「クマの数が多すぎると、防除の効果が出づらいだろう」
「対策の効果が出やすい個体数にもっていく」
それが「管理強化ゾーン」の設定です。
人の生活圏に近いところにクマが定着すると、人が襲われるリスクが高まることから、県が「管理強化ゾーン」の配置案を示し、それを受けて、市町村がその範囲を設定します。
強化ゾーンでは、足跡を頼りに、追跡しやすい春の時季、これまで認められていなかった親子グマの捕獲や山林内のわなの設置が可能となります。
近藤さん
「それはやっぱり時間がかかるものであって、今すぐ急にクマの数、裏山のクマの数が急に減るわけではないですし、それでバタッと出没がなくなるかっていうと、そうではないので、恐らく」
「全国的にもこの市街地に出てくるクマの対策って、試行錯誤している状態なんですよね。 なので、今回のこの管理強化ゾーンも、やってみないと分からない。やりながら考えていくで、その間、やっぱり人身事故を防ぐとか、進入出没を防ぐっていう努力も同時にやっていかないといけないので、そこの手も緩めず、皆さんひとりひとりの注意はやっぱりこれからも欠かせないものになります 」
近藤さんは、鹿角市での取り組みを先行事例として知見を集め、その後、対策を各地に広げていく考えです。
対策の効果が発揮される、つまり、クマの行動が変化するまでは、数年かかると見込まれます。
市街地での出没に関して近藤さんは、人が襲われるケースのほとんどはクマとバッタリ遭遇しているため、音を立てて人の存在を知らせることが大切。
そして、目撃情報の共有のため、県のツキノワグマ等情報マップシステム「クマダス」の積極的な活用を呼びかけています。