秋田市出身のフォトグラファー小松由佳さん “ノンフィクション作家の登竜門” とも言われる文学賞を獲得! 内戦状態にあるシリアの人々の暮らしや思いに迫るセルフドキュメンタリー

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秋田 2025.07.18 15:44

ノンフィクション作家の登竜門とも言われる「開高健(かいこう たけし)ノンフィクション賞」に、秋田市出身のフォトグラファー・小松由佳さんの「シリアの家族」が選ばれました。

「開高健ノンフィクション賞」は、未発表の作品が対象で、23回目の今回は201編の応募から小松さんの作品が頂に立ちました。

太平山に憧れを抱き 登山家として名をはせた青春時代


小松由佳さんは、1982年生まれ、秋田市出身の42歳です。

幼少期に自宅の近郊にそびえる太平山に憧れを抱き、頂の向こうにある世界を目指したいと、高校・大学で登山にのめりこみます。

2006年に母校・東海大学の登山隊のメンバーとして、"世界で最も困難な山"と称される世界第2位の高峰、8,611メートルのK2に、日本人女性として初めて登頂。

この年、植村直己冒険賞を受賞しました。

登山家からフォトグラファーへ そして、、、シリアでの転機

世界をめぐる登山の中で、それぞれの風土に根ざした人間の営みに惹かれていった小松さん。

モンゴルの草原や中東の砂漠を旅し、放牧民や遊牧民の暮らしや多様な生きざまに魅せられ、その姿を取材し発信するフォトグラファーとしての活動をスタートさせました。

シリアでの撮影を始めたのは2008年でしたが、この活動が人生の転機となります。

それからほどなくしてシリアは内戦状態に突入。小松さんは、多くの知人や友人が難民となっていく姿を目撃、その中には12年に出会い、翌年結婚するシリア人の夫とその家族もいました。

"難民になること、故郷を失うことがどういうことか"

期せずして自分事になった中で、多くの人々と深い関係を築き、目の前の事象だけでなく、過去からの経緯も丁寧に取材を重ねて生まれた作品が「シリアの家族」です。

小松さんが描いたのは、独裁、内戦など混迷や絶望の中でも懸命に生きる身近な家族やそこで暮らす人々の姿です。

◇アサド政権の崩壊により当初の目論見とは違った展開に

(小松由佳さん公式HPより「シリアの家族」について)

この作品は3年前に書き始めました。

当初、終わりの見えないシリアでの動乱に翻弄され、異郷での生活再建を目指しながら、故郷への帰還を夢に見るシリア難民の姿を描く予定でした。

しかし、昨年2024年12月にアサド政権が崩壊したことで、自分で言うのもなんですが、大変起伏に富んだ、予想だにしなかった内容となりました。

◇自らの人生も投影した物語に


作品で表現したかったのは、人間が、それぞれの環境のなかを懸命に生きていること。

それぞれに、かけがえのない人生があるのだ、ということです。

同時にこの本は、私自身のセルフドキュメンタリーでもあります。

シリア人の夫を持ち、家庭生活を営み、子連れパニック取材を繰り返しながら、なんとか細々と難民を取材し続けてきたことで書くことのできた、オンリーワンの一冊であると自負しています。

小松さんからのメッセージ「この受賞を、希望とともに新しいシリアを生きようとしているシリアの人々へ捧げたい」

秋田放送の取材に対し、小松さんは次のようなメッセージをよせています。

7月13日、開高健ノンフィクション賞の受賞作品が発表され、「シリアの家族」が受賞となりました。

大変光栄なことで、驚いております。

作品では、2011年以降、内戦状態となった激動のシリアで、人々がどのように暮らしを奪われ、どのように難民として異郷に生きてきたのか。

そしてアサド政権の崩壊によって、何がもたらされたのかを、私の夫の家族を通して描きました。

これまで経済的に不安定ななか、ドキュメンタリーフォトグラファーとして情熱をもって取り組んできたシリア難民の取材。

それが、作品としてひとつの形となったこと。

そしてこのような栄誉ある賞として評価いただいたことを、大変嬉しく感じています。

これにおごることなく、これまでのように地道にコツコツ取材を続け、これからも、シリアの人々の生き様を描いていきます。

この受賞を、希望とともに新しいシリアを生きようとしているシリアの人々に捧げたいと思います。


作品は秋以降、集英社から出版される予定です。