【特集】あの桜並木と思い出を胸に…記録的大雨から間もなく2年 地域の形が変わる中 動き出した男性の思い
秋田市の中心部が広く冠水したおととしの記録的な大雨から、間もなく2年となります。
秋田市の太平川では、改修工事が進められていて、川沿いの桜並木がなくなるなど、地域の形が変わりつつあります。
そんな中、かつての景色に思いを馳せてもらおうと動き出した男性を取材しました。
2年前の大雨で浸水被害が相次いだ、秋田市楢山大元町。
今も柱がむき出しの住宅で過ごしている、圓井智哉さん44歳です。
圓井智哉さん
「今でも結構、今は小雨ですけど、強い雨とかが降ると、やっぱり雨音とか、恐怖で思い出すというか、ダムのように浸かった町内に水が落ちる音がすごい恐怖に感じていて、今も」
おととし7月の記録的な大雨で、この地域は一帯が水に浸かりました。
行き場を失った水は、圓井さんの家にも押し寄せ、あっという間に1階部分や車を飲み込みました。
2日かかってようやく水が引き、家の中を見た瞬間、全身から一気に力が抜けていくのを感じたといいます。
元通りの生活に戻す作業を急ぐ一方で、胸にこみあげてきたのは、喪失感でした。
家族との思い出が詰まったものも、手放さざるを得なかったといいます。
「ごみって書こうとした時に、ごみじゃないなって自分ですごく思いました。捨てたくて捨てたいわけじゃないから」
街なかや自然の中で聞こえてくる音をレコードに刻むアーティストとして活動してきた圓井さん。
その瞬間に感じた思いを大切に、様々な作品を作ってきました。
突如襲ってきたあの大雨。
何から手をつければいいのか分からないまま流れていく日々。
それでも、決して目は背けませんでした。
心の中にしっかりと焼き付けたあの日からの一分一秒を形にした、特別な映像作品があります。
ボランティアとして助けてくれた人たちへの感謝と、暮らしてきた地域への思い。
そして、目の前の現実と向き合う決意を表しました。
圓井さん
「精神的にガーってやられてしまう時というか、何か起こるとしばらく誰しもみんなこう続くわけ、心の中にこう痛みっていうのが。でも多分そこからずっと苦しいと、人間の根源的なものか分からないですけど、そこからなんかちょっと上がっていこうかなって、気持ちが自然にあるような気がして。まぁ僕もそうなんですけど」
あれから2年。
今でも、あのピアノの部品だけは、手元に残しています。
過去の思い出とともに、大雨の後に生まれた感情も心に刻んでおくためです。
月日の経過とともに、少しずつ気持ちを整理させてきた圓井さん。
いつしか、自分のことだけではなく、地域のために何か始めたいという気持ちが沸いてきました。
毎日のように、この地域を散歩している経験から、先月、初めて開いたのは、街歩きイベントです。
参加者とともに向かった先は、この地区を流れる太平川です。
圓井さん
「本当はここにずっとサクラの木がバーッてあったんですけど、もう全部伐採されてしまって、ちょっと前まで切り株が残っていたんですけども、それもやっぱり改修工事のため、なくなっちゃっていますね」
「ああいう袋の中に、結構木の、サクラの枝とかもたくさん入っていて」
地域のにぎわいの象徴だった桜並木を想像しながら歩いて、いろいろな思いを巡らせてほしい。
SNSで呼びかけたところ、関心を抱いた学生や地元の友人など8人が集まりました。
太平川は、2年前、大雨で氾濫しました。
住民の命と暮らしを守るための工事に伴い、なくなった桜並木。
「どれくらい前になくなったんですか」
「去年?わりと最近の話ですよね」
「ずっと住んでいるのに、全然出歩かないから」
「木がないと趣がない」
「絶対1回は通りますよ。ここ、チャリで。花見期間中」
「そうだね」
景色は変わっても、過ごしてきたこの地域を大切に思う気持ちに変わりはありません。
その移りゆく姿を、ここで暮らす人たちとともに見つめていたい。
圓井さん
「白鳥がいた時にレコードをほる機械を持って行って、鳴き声をレコードにその場でほったっていうやつです」
見続けてきたからこそ出会えた、冬のハクチョウ。
その光景にも、想像の翼を広げました。
記録的な大雨から約2年。
流れた月日は、この地で生きる人たちの心を少しずつ動かし、太平川は、その暮らしを守るために形を変えました。
圓井さん
「まだ何本か残っているので、それも大事にして、両方受け入れながら過ごせればなぁとは思っています。そうしていかないと、むしろこの街の地域の人も、気持ちのよりどころというか、どうしていいか分からない人もいると思うので、そうやって受け入れていければなとは思っています」
地域とともに生きる決意を胸に、圓井さんは、一歩ずつ前へと進み続けます。