【特集】JAに出荷か商社に販売か 選択を迫られる農家の思いは… 秋田・横手市
5日後に投票日が迫っている参議院選挙。
争点の1つになっているのがコメの価格対策です。
政府備蓄米の放出によってコメの価格は下がりつつありますが、農家からは新米の価格への影響を懸念する声が上がっています。
こうした中、農家はこれまで通りJAにコメを出荷し概算金を受け取るのか、それとも商社など別のルートに販売するのか、それぞれ選択を迫られています。
横手市の農業法人を取材しました。
■目指すのは"未来型のコメ作り" 乾田直播栽培で省力化
日本一広いと言われる盆地に、田んぼがどこまでも広がる横手市。
自治体別のコメの収穫量は新潟市、大仙市に続いて全国3位です。
去年、約260トンのコメを出荷した農業法人、みずほライスで代表を務める熊谷賢さん。
約70ヘクタールの田んぼであきたこまちなど4種類を作付けしています。
いま力を入れているのがデジタル技術を取り入れたスマート農業の導入です。
熊谷賢さん
「水だけをはかり続けるセンターになるんですけど、水がきちっと入り続けているかどうかを見たり、データを飛ばすわけですね。それで、ここ(画面)に出てくると。田んぼの数がうちは500から600ぐらいまで増えてきたので、500~600か所見て回れますかっていう話なんです。それがこういうものをつけると、水が減っていたら赤いマークがつく。水がちゃんと入っていたら青いマークになっていると。水管理の効率化ですね」
新たなコメ作りの手法にも挑戦しています。
熊谷賢さん
「超省力型、未来型のコメ作りみたいな。通常こういう田んぼを1枚田植えしようとすると、半日くらいかかっちゃうんですけど、同じぐらいのやつを3枚やるので2時間で終わってる。3分の1から4分の1くらいの時間。しかも人もいらない」
こちらの田んぼで試験的に行っているのが乾田直播栽培と呼ばれる稲作です。
乾いた田んぼに直接種もみをまいて育てる方法で、田植えの手間やコストを減らせるメリットがあります。
ただ、雑草が生えやすいほか、収穫量も不安定で作付けを諦める農家も少なくありません。
熊谷賢さん
「誰かがやって失敗しないと何で悪いかがわからない。みんな言うんですよ、ダメだったって。雑草が生えてダメだったって。どうダメだったか、どうするべきだったかというところまでいかないんですよ」
■JAへの出荷を商社や個人に切り替え 農家の決意
半導体を扱う商社の営業マンとして世界各地を飛び回っていた熊谷さん。
6年前、父親が代表を務める農業法人を引き継ぐため、故郷の横手市に戻ります。
そこで目の当たりにしたのが深刻な農家の高齢化でした。
熊谷さんの農業法人が、コメ作りをやめた農家から請け負う田んぼは、年々増加しています。
作付面積はこの10年で2倍以上に増えました。
しかし。
熊谷賢さん
「(作付)面積はこうやって増えていってるんですよ。面積増えているのに売り上げは下がっていく。こういう異常事態ですね、でもやめるわけにもいかない。みんなやめていきますよね、もうからないからやめるで、その分がどんどん集まってくるので」
農業協同組合 JAにコメを出荷する際、農家には前払い金として概算金が支払われます。
おととしまでの10年間は、あきたこまちの1等米が60キロあたり8,500円から1万3,000万ほどで推移していました。
熊谷賢さん
「感覚的なところでいくと、やっぱり1俵2万円ぐらいがまず最低限必要、チャラになるライン。これにプラス数千円入ってくることでやっと新しい機械に変えられる、壊した機械をメンテナンスできる、新しい人を入れられる、色んな投資に回せる。そうじゃないと続かないです」
概算金がコメ作りに掛かる経費を下回る一方で、肥料や農業機械の価格は高騰。
コメを作れば作るほど、赤字が膨らむ状況が続いていました。
おととしまでは収穫したコメの約7割をJAに出荷し、残りの3割を商社や個人に販売していた熊谷さん。
今年はすべてのコメを商社や個人に販売することにしています。
きっかけとなったのが、‟令和の米騒動”です。
コメ不足が叫ばれる中、去年、商社側が提示した買取価格は2万円台中盤。
JAの概算金は2万円に届きませんでした。
熊谷賢さん
「再生産価格を超えた価格で売るっていうことをお話できるところとお付き合いするしかない、1択です。選択肢などありません。それか廃業するか。それだけ。でも廃業したらこの面積誰がやるの?(去年は)僕ら60ヘクタールまでいっちゃってるので」
コメの需要などを見越して算出される概算金。
JAの販売実績に応じて追加払いが行われることもありますが、概算金を下回る金額でしか売れなかった場合、農家は差額を返金しなければなりません。
父・正さん
「これやってる限りは農家が苦労するんだよ」
かつては農家の代表として地元の農協で役員も務めた父・正さん。
概算金制度では、コメが高く売れなかったときのリスクを農家が背負わされていると指摘します。
父・正さん
「赤字になれば農家に補填して下さいってことでな。一発で払ってもらいたいというのがほとんどの声ですね」
コメの確保に向けてJA全農あきたは、今年の概算金について、あきたこまちの1等米60キロあたり2万4,000円を目安として示しています。
熊谷賢さん
「(備蓄米の放出で)市場価格が下がっちゃったから、2万4,000円で買うとたぶん赤字になる可能性が出てきたんじゃないの?」
父・正さん
「農協は赤字になると思うよ」
熊谷賢さん
「ただ、農家はずっと赤字だよ。なんか片っ方だけっていうのもおかしいよねっていう話。ここ数年は赤字なんだからなんか…バランス悪いよね」
コメの価格高騰で、農家にようやく光が差したと思ったのも つかの間。
政府備蓄米の放出で、コメの価格動向は不透明な状態が続いています。
熊谷賢さん
「農家はやっぱりコメ作っていきたいですからね。農業ずっとやりたいんですよ、けっこう楽しい仕事です。喜ばれる仕事でもあるので続けたいんですけど、続けられない状況を外部要因で作られちゃうのはちょっと辛い。やりたいことをやらせてもらい続けるような政策みたいなものが出てくるとうれしいなって思いますね」
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熊谷さんは、経営の厳しさからJAへのコメの出荷をやめざるを得ませんでしたが、農業技術の指導や資材の共同購入などを行うJAは農家には欠かせない存在だとも話していました。
農業は秋田の基幹産業です。
生産者の生活を守りながら、コメが安心して買える環境を担保するための政策が求められています。
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