【特集】令和の米騒動にトランプ関税…秋田が誇る酒造りにかつてない危機 酒蔵は?酒米農家は?それぞれの思い
秋田県内の酒蔵で造られた日本酒は、全国でも高い評価を受けていて、秋田は美酒王国とも呼ばれています。
しかし、その酒造りが、今、かつてない危機に直面しています。
現状を取材しました。
全国屈指のコメどころ・秋田。
紡がれてきた文化があります。
「やっぱり日本人たるもの日本酒」
500年以上前に原型が確立したと言われる、日本の伝統的酒造り。
守るべきものとして、世界がその価値を認めました。
しかし。
秋田県酒造組合 伊藤康朗 会長
「正直、危機的な状況というよりかは、絶望的な状況になってきております」
先行きが見えない、令和の米騒動。
世界を翻弄する、関税政策。
混迷を極める時代の中でも、地域の文化を紡ぎ続けようと奮闘する人たちを追いました。
■輸出に挑戦も…アメリカの関税政策にコメの価格高騰 相次ぐ難題
創業1914年。
横手市大森町の酒造会社、大納川です。
飲んで酔うだけでなく、心を酔わす酒を醸したい。
蔵人たちは、1本1本丁寧に、心を込めて瓶詰め作業を行っています。
田中文悟 代表
「常に飲み手の心というか、ファンの皆様が喜んでもらえるようにというのは意識していますし、蔵人にも、私たちが作った商品がファンの皆様の喜んでもらえる顔を思い浮かべながら醸していこうっていう話はよくしています」
代表を務める、田中文悟さん。
販路拡大のため、今年新たに始めたのが、アメリカへの輸出です。
しかし。
田中文悟 代表
「こちらが今回アメリカに輸出している商品なんですけど、予定通りの数量がいかなくて、ラベルが残っちゃっている形になっています」
背景にあるとみられるのが、アメリカのトランプ大統領が打ち出した、追加の関税政策です。
田中文悟 代表
「年間で6回、3000本ずついく予定だったのが、初回で500本ぐらいで終わってしまったので、このあとどういう展開で、またアメリカで景気が回復して、商品が流れ出すか、今のところ少し不安なところはあります」
鹿児島生まれの田中さん。
30歳で大手ビールメーカーを退職し、全国各地で酒蔵の再生事業に取り組んできました。
田中文悟 代表
「必ずですね、大納川を再建させて、秋田の地、横手の地でですね、皆さんから誇れる酒蔵になるように頑張りたいと思います」
廃業の危機に陥っていた今の大納川の経営を引き継いだのは、6年前。
“酒造りは街づくり”をモットーに、品質の向上やファンを増やす取り組みなどに力を入れてきました。
昨年度までに、生産量を約10倍、売り上げを7倍以上に回復させています。
コロナ禍でも伸ばし続けてきた業績。
しかし今、大きな不安材料となっているのが、原料となる酒米の価格高騰です。
田中文悟 代表
「全体としての流れって、どんな感じですかね」
卸売会社の担当者
「全体としての流れは、やはり基本的にコメは上がると思います。6年から7年産に比べれば上がると思う。イメージとすれば、50%精米ぐらいで考えると、100円後半から200円前半キロあたりで上がる可能性が非常に高いと思います」
田中文悟 代表
「現状で200円ぐらい変わるとすると、去年と同じ仕込みをすると、1000万ぐらい(経費が)上がっちゃうかなっていう懸念があるので、さすがにそれはかなり厳しいので、減産も考えていかなければというのもありますけど、減産すると売り上げがただ落ちるだけになるので、それもそれで苦しいですね」
原材料費の大半を占める、酒米。
主食用米の価格高騰に伴い、仕入れ価格は跳ね上がる可能性があります。
田中文悟 代表
「状況変化にうまく対応して、来年もしっかりと酒造りができればと思っていますので」
卸売会社の担当者
「日々状況が変わってしまうので、流れに身を任せるしかないような状態」
■諦める農家も…酒米づくりを続ける男性の思い
横手市大森町の農家、赤川昭夫さん。
約60アールの田んぼに、秋田オリジナルの酒米、秋田酒こまちを作付けしています。
粒を大きく育てる必要があり、主食用米と比べて、生育や品質管理に手間とコストがかかる、酒米。
妻・淑子さん
「私やめれって言ったの。あきたこまちだけでいいって。いろいろやらねねばねえべ。こまち植えて、酒米植えて、サキホコレでしょ。機械も掃除して稲刈りするにもめんどくさいから、こまちだけにしなさいって言ったのよ」
JAにコメを出荷する際、農家には、先立って概算金が支払われます。
秋田酒こまちの概算金は、毎年のようにあきたこまちを上回っていましたが、令和の米騒動を受けて、去年、それが大きく逆転。
県内では、今年、酒米づくりをやめる農家も出ています。
赤川昭夫さん
「(酒米の作付けを)躊躇した方がいた。どうしようかということで。だけど、仲間で、我々今まで頑張ってきた蓄積があるもんだから、ある程度、今までよりも強固にして、供給する義務があるのよ。私たち地元としては、それが初めて酒米作った経緯があるから」
赤川さんが酒米を作り始めたのは、14年前。
きっかけは、当時、売り上げが落ち込んでいた今の大納川を応援したいという思いでした。
酒米を作付けする仲間を募り、酒造りにも参加。
自分たちで育てた酒米を醸し、販売にも携わりました。
赤川昭夫さん
「とにかく、まちが疲弊していた」
酒蔵とともに地域が衰退していく様子を、見過ごせなかったといいます。
妻・淑子さん
「お酒が好きだから、酒こまちから離れられねぇなでねぇが。値段ばりでねくって」
酒米だけでなく、資材費や輸送費など、あらゆるコストがかかり増しになっている、日本酒。
しかし、その分を価格に上乗せすれば、消費者が離れてしまう恐れがあります。
田中文悟 代表
「我々、本当に疲弊した酒蔵を元気にして、ファンを増やして、売り上げを上げていくということを中心にやって参りましたので、まさか主原料のコメがここまで上がるということは今までなかったので、また違う再生方法を考えていかなければならないかなと、今、思っています」
コメどころ秋田は酒どころ。
先人たちが紡いできた文化を絶やさないために。
農家や酒蔵を取り巻く状況が厳しさを増す中、模索が続いています。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
県は、県内の酒蔵が昨年度仕入れた県産の酒米などについて、おととしからの値上がり分の半額を助成する1億円余りの予算案を今の県議会に提出し、可決されました。
ただ、去年から今年にかけての値上がり幅が拡大して、さらなる支援が必要になる可能性もありそうです。