【特集】阿仁マタギの血を受け継ぐ若者が3年間の修行を経て故郷へ マタギとして暮らしていくための学びや挑戦とは 令和のマタギを目指す若者の姿を追う 秋田・北秋田市

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秋田 2025.06.13 18:09

今から約60年前、1960年代に撮影された阿仁マタギの映像です。

北秋田市の阿仁地域で狩猟を生業としてきた人たちで、身に着けている装束には、捕らえた獲物の皮や骨が使われています。

独自の習慣やしきたりなどがあるマタギですが、その文化は時代の変化とともに失われつつあります。

こうした中、阿仁マタギの血を受け継ぐ若者が3年間の修行を経て、この春、地元に戻ってきました。

阿仁地域でマタギとして暮らすために何を学び、これから挑戦していくのか。令和のマタギを目指す若者の姿を追いました。

松橋翔さん
「はい お出しします モモ肉後ろ足の部位になりますね。今回は2歳のメスの個体のモモ肉を用意しております」

シカ肉の解体作業に参加できる体験ツアー。

ガイドを務めたのは、阿仁マタギの家系の16代目にあたる松橋翔さんです。

マタギとして生計を立てるため岩手県で3年間修行を積み、この春地元に帰ってきました。いま力を入れているのがマタギ文化を伝えながら進化させる取り組みです。

松橋さん
「新しいスタイルのマタギっていうのを私は『令和のマタギ』と言わせて頂いていてそこを体現できるように」

<ジビエ先進地で修行>

松橋さんが修行の場として選んだ岩手県大槌町。

野生のシカによる農作物への被害が深刻な地域でした。

駆除されたシカは野生動物の肉、ジビエの特産品として商品化されています。

松橋さん
「修行の場として来ているんですけど 僕自身が阿仁で暮らしていくために仕事を作りたいなと思っていたところから、ジビエ事業というところにたどり着いたんですよ」

ジビエの先進地に飛び込んだ松橋さん。

ほぼ未経験で始めたシカの解体は3年間で約1,000頭にのぼりました。

『地元の阿仁に戻ってマタギとして生活をする』。松橋さんの決意を家族も応援しています。

見せてくれたのは松橋家に伝わるナガサ(山刀)と呼ばれる刃物です。

松橋さん
「これはずっと父が使っていたんですよ。(祖父から)引き継いで使ったのを私が実家を離れるタイミングで譲り受けて、いずれ戻ってくるというところを離れるタイミングから言っていたので『じゃこれを持っていって』という感じで」
「おじいちゃんから一番強く受け継いでいる伝えてもらったところというのは、山からの授かりもの、そういうところに対する精神性というのが一番強いんじゃないかなって思っていて、生きるために獲っているというのがルーツじゃないですか。ただ殺して終わりっていうのが一番やっちゃいけないことで、獲らなきゃいけないっていう現実もあるし、その獲った命をどうするかっていうところがむしろ大切で」
「全部余すところなく使うっていうところの精神はこれからも必要になってくると思うし」
「立ち返らないといけない部分だと思っています」

大槌町で暮らし始めてから狩猟免許も取得した松橋さん。

狩猟が解禁されたこの日。

獲物を囲んで追い込む巻き狩りを地元のハンターと行いました。

松橋さん
「ハーーーイ フォーーイ!」
「シカだ!シカ気づかなかった。クマだったらな、いやクマだったらいまのタイミング構えられないや」
「撃った! クマかな」
仲間
「シカが雌一頭ゲット」
松橋さん
「シカ?」
仲間
「4頭群れが来ましたけど、1頭だけ獲りました」

松橋さん
「マタギっていう文化、伝統を残すというところと、獲ったところで終わるんじゃなくてそれを新しく価値として外向けに発信するというところ」
「阿仁には豊かな山があるんですけど、その豊かな山から授かっている恵みを豊かな地域づくりにつなげていく」

<成長の場との別れ>

岩手県での修行が残り2か月となった今年1月。

3年間の成果報告と、お世話になった町民への感謝を伝える交流会が開かれました。

松橋さん
「これが狩猟に使うナイフです。私、地元が阿仁マタギ狩猟文化があるところなんですけど、そこで使っているマタギナガサというやつを使っています。これは時幸と書いてあるんですけど、祖父のナガサです。これを受け継いで祖父が現役の時から使っているので50年ものですね」

この日、松橋さんが持参したのが、祖父から受け継いだナガサと3年間の修行中に相棒としてシカを捌いてきた包丁でした。

松橋さん
「こっちが比較的新品のナイフ、こっちが3年間解体で使ったナイフです。もともと同じナイフでした。3年間使うと研いでいるので擦り切れてだいぶ削れて細くなっています。こうやって解体をしたのがおよそ1,000頭くらいです」

松橋さん
「これからツアーだとか、ジビエバーベキューだとか、教育だとか、そういうところにつなげていきながら、大槌で学んだことを、大槌と似たようなことをしながら地元でもやっていきたいなと思っています。最後これ、おじいちゃんの写真なんですけど、おじいちゃんから受け継いでいるものっていうのが、僕にすごく受け継がれています。で、こうやって受け継がれてきたものを僕のところで途絶えさせるんじゃなくて僕からまた次の代につなげていくっていうのが僕の当面の目標です。最後になりますが、大槌町の皆さんに見守っていただいてとってもとっても温かい3年間でした。本当にありがとうございました」

<令和のマタギになるために>

3年間の修行を経て、地元に帰ってきた松橋さん。

マタギ文化を発信していくために地元の観光協会に籍を置くことにしました。

松橋さん
「外では修業していたんですけども、まだ北秋田市内では狩猟者登録をしていない。だからまだ本家のマタギは継げてはいないんだなと私自身感じていますので、16代目にあたる人だよ、というところだけおさえていただければと思います」

観光客を対象にしたプログラムも自ら考案。

初回のこの日。

まず参加者に説明したのは、全国的に社会問題となっているシカやイノシシ、クマによる被害と駆除の実情です。

松橋さん
「仕方なく命を奪っておいて有効活用しているのは、たった17%、たった8%、残りの58万頭、46万頭の命って捨てられているんですよ。これって悲しいことじゃないですか。課題はこれですよね。奪った命を捨てているという現状です」

山の恵みでもあるシカ肉は大槌町から取り寄せました。

その場で食べきれない肉は参加者全員、平等に分けるマタギのしきたり、『マタギ勘定』で取り分けます。

松橋さん
「どんどんジビエという利活用を増やしていって、捨てる命がなくなるように余すことなく活用できるように なっていったらいいなと思っています。きょうの体験をほかの方にもお伝え頂いたら幸いです」

参加者(子ども)
「楽しかったです。シカのお肉触ってみてぷにぷにして面白かった」
「肉じゃがとかにして食べたりします」

参加者(親)
「授かっていくという全てのものに感謝していくようなところ、自然の中で生かされている、それをいままさに生きている文化として伝えられるというところは、世界でもなかなかないですので、本当にポテンシャルを感じていますし、マタギの昔からの知恵、考え方に改めて学ぶことが多いんだなと感じます」

伝統的な猟師の文化を次の世代につなげるために。時代にあわせたマタギの姿を追い求める松橋さんの挑戦はこれからも続きます。

松橋さん
「受け継いでいって受け伝えていって、これからに伝えていくフェーズ(段階)にいま差し掛かっていると思いますし」「もちろんいままで受け継いでき た大事な部分というのはそのままにしながら、私たちにいま必要になっている力というのが別にあると思っていて、その部分を取り入れた新しいスタイルのマタギというのを私は『令和のマタギ』と言わせて頂いていて、そこを体現できるように頑張っていきたいです」