“令和のコメ騒動”が投げかける本質的な課題とは コメ政策の行方は 3人のキーマンの言葉に注目 秋田
去年から続くコメ不足を背景にした『令和のコメ騒動』。
消費者や農家にとってコメの価格は大きな関心事です。
一方、主食であるコメの生産をどう安定的に維持していくべきかという議論は尽くされていないのが現状です。
輸入米のシェア拡大という脅威が迫る中『コメを守る』そして『農業を守る』というワードも耳にするようになりました。
『令和のコメ騒動』が投げかける本質的な課題とは。
3人のキーマンの言葉に注目しました。
■コメ不足に立ち向かう
大潟村の農家・涌井徹さん。
今年この田んぼで栽培に取り組んでいるのは「しきゆたか」という多収穫品種です。
コメの増産に向けた切り札のひとつと考えています。
涌井さん
「(10アールあたり)13俵は最低でも」「これを坪70株くらいで植えていくと15俵以上はもちろんいくしこれでも13俵以上」
記者
「普通の(あきた)こまちが8-9俵ですから」
涌井さん
「だからね、品種を変えることが最も手っ取り早い」
これまでコメの価値は食味の良し悪しで測られてきましたが、コメ不足の時代はその価値基準が大きく変わると涌井さんは話します。
涌井さん
「いま明らかにコメ不足、農家不足が来たんだから、いまこれからは基準は多収穫、圧倒的多収穫。それが増産とコスト削減の両方に影響を与える」
■JA秋田中央会・小松忠彦会長の主張
小松会長
「これ以上(コメの)小売価格が 高くなることは国産のコメ離れとなり、さらなる生産現場を苦しめるものです。適正価格の安定化につながる施策は不可欠であり、早急な指針をまず示していただきたい」
県選出の国会議員など約500人が参加したJAの集会。
国がコメの増産に政策転換し生産現場が混乱しているとして、農業関連予算の拡大や生産維持のための施策を整備するよう訴えました。
小松会長
「小泉農水大臣は“いまの農業現場には大離農時代がくる”(と発言)」「そういう中でどのようにして増産を果たしていくのか。大規模区画整備やスマート農業を推進して、少人数でも生産できる農業を目指すことは集落や地域の人をさらに減らし、そこに培われてきた祭りなどの農村文化が消滅してしまうことを推進することになりかねないことに気が付いているのか」
コメの増産に向けた大規模化・集約化に警戒感を示したJA秋田中央会の小松忠彦会長。
小松会長
「あくまでも増産は需要に応じた生産を基本とすることが重要であり」「適正価格への国民理解の調整を 図っていただくことをお願いするものです」
■大潟村の農家・涌井徹さんの主張
こうしたJAの主張を大潟村の涌井さんは真っ向から否定します。
涌井さん
「『需要に応じた増産』っていう言葉があるじゃない。だからダメなのね。この場に及んでまだ農林族と自民党・農協はそんなこと言っているからダメなのよ。増産という声を明確に出して、そのために課題を一つひとつクリアしていこう」
多収穫品種の栽培にとどまらず、涌井さんはここ数年農家が次々にコメ作りをやめる大離農時代を見据えた取り組みを続けてきました。
2019年の涌井さん
「日本中の農家が8割、9割もやめる環境になっている。そのとき大事なことは、急いで農地を集めないといけないのではなく、みんながやめるから、その地域の農業を農業基盤として残していくにはどうしたらいいのか」「守るんじゃなく攻めるわけよね。守ろうという発想はダメ。農地を守る、農家を守るんじゃなくて農地を使ってどういう攻めの経営ができるか」
たどり着いた答えがいま力を入れているパックご飯の製造です。
涌井さん
「農業者人口が減ることによって、どんどん面積が集まってくるもう処理しきれない」「しかし農業法人が10社20社集まって連携して地域の学校(廃校)を使ってライスセンター・加工工場を作るとしたらいっぱいあるわけ、チャンスは」「農業は一人で地域を守れないけど、みんなで守るようにするにはやっぱり産業にしなきゃいけない」
これまで日本のコメ作りは、個々の農家の犠牲の上に成り立ってきたと話す涌井さん。
時代の転換点を迎え、家業の農業から産業としての農業への脱却が必要だと訴えます。
涌井さん
「いままで日本の農業は戦後80年間、家業としてきたからここまできた。家業というのは経済ではない。生活の一部であり財産であった」「受け継いだ農地をどうやって子供に残し、孫に残していくか。伝えていく役割だった農家個々は、そのために農業収入が不足した時には出稼ぎをし、兼業農家に変わってきた。それでもまだ足りないから家族農業は無報酬としてコストを考えないでそしてやってきたけど、とうとう戦後80年たって家族農業が継続できなくなった。理由はコスト上昇ですね」「そこで初めて家族農業は継続できないとしたらやはり市場経済に対応できうる農業の形態に変えていかないといけない。それが産業としての考え。産業としての考え方ができる農業に変えなきゃいけない」
■小泉農水相は?
自らをコメ担当大臣と名乗り、様々な手法で高騰するコメ価格への対応に力を注いできた小泉農林水産大臣。
小泉農水相
「多くの方に安心して食べていただく。そこまで下げましょう。こういった取り組みが広がりつつあるので、やはり政治のひとつの方向性の中で・・・・」
7月。
選挙の応援演説で秋田を訪れた小泉大臣は「輸入米から日本のコメを守るため価格に注力してきた」と力説しました。
小泉農水相
「日本のお米のほうが高いから、なんと昨年と今年を比べて海外のお米が120倍日本に入ってきている。こういう現状をもしも私がお米は高いままでいいと放置をしていたらもっともっと海外のお米が日本に入ってくるんです」
■「守る」の本質は?
生産者の立場からコメ作りのあるべき姿を追求し続けている大潟村の涌井さん。
「今後は輸入米との競争は避けられない」と述べた上で、現状を踏まえた取り組みが必要だと語ります。
涌井さん
「日本のコメ不足によって日本のコメ農業は世界のコメとの競争の舞台に必然的に現れてくる」「主食用米を守る守るという意味を何をもって守るというか。米価を上げれば守れるのか」「本当の守るという意味が、いまの日本のコメ農業というのは後継者がいなくてできないわけですから、若者が平均年齢68歳の産業で継続するものはあり得るわけがない。それがいままさに問われる。今後どうするか。守るという意味は農家を守るんじゃなくって日本のコメ農業の将来を守る、そこに行かないとダメ」
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涌井さんは近く都内で会見を開き、コメ農業再生のための取り組みをメガバンクなどの他業種と連携して進める方針です。
日本のコメ作り、そして流通はどうなっていくのか。
ABS news every.はこれからもコメを巡る動きを追い続けます。