【特集】地域おこし協力隊で地域活性化 3セク設立から3年…「移住・定住」か「関係人口増加」か 挑戦的な取り組みのこれからを考える

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秋田 2025.05.27 17:40

特集は秋田県の南東に位置する東成瀬村についてです。

人口は約2,300人。

住民生活に支障が及ぶ積雪だとして「特別豪雪地帯」に指定されている過疎地域です。

この東成瀬村が、昨年度、地域おこし協力隊の隊員の数で全国2位となりました。

1位は島根県の離島・海士町で87人、次いで東成瀬村が84人です。

「地域おこし協力隊」とは、おもに都市部からの移住者が住民票を異動し、地域ブランドの開発や商品のPRなどを行うもので、過疎地域の活性化を図る制度です。

移住・定住が前提となる地域おこし協力隊。

取り組みを取材する過程で、東成瀬村の実情が見えてきました。

東成瀬村と「なるテック」

先月1日。

東成瀬村役場では、新たに地域おこし協力隊になった7人に委嘱状が手渡されました。

先月1日時点の隊員数は、昨年度より20人少ない64人。

このうち59人が、東成瀬テックソリューションズ、通称「なるテック」の社員を兼ねています。

隊員
「以前は大学・大学院で情報科学に関する基礎知識を学び、その後コンピューターシミュレーションに関する研究をしておりました」

隊員
「地域おこし協力隊として取り組みたいことは、農業の担い手不足の解消についてです」

村も出資するIT企業「なるテック」を率いる近藤純光社長。

近藤社長自身も任期満了となる昨年度末まで地域おこし協力隊の隊員でした。

近藤純光社長
「当初掲げていた5年で(隊員数)100人という目標設定に対して3期半終えて65名ということなので、まだまだこれからだなと思っているところですね」

おもに都市部から過疎地に住民票を移し、地域おこし支援や農林水産業などに関わりながら定住・定着を図る地域おこし協力隊。

報酬は1人あたりの上限が350万円で、そのほか活動経費として1人、最大200万円まで認められています。

いずれも国から特別交付税措置として市町村に支給されます。

近藤社長
「さぁみなさんやってまいりました!2023年一発目の全体会議!!」

村に新たな産業を興すために。

また隊員の受け皿として誕生したIT企業の「なるテック」。

技術者として成長すれば、地方でも豊かに暮らせるとして社員・隊員の採用を進めてきました。

近藤社長
「未経験者であっても研修をしっかりと受けてITのスペシャリストになれば、手に職がついた分だけ収入が上がるよねって話だし、支出を下げるという話だったら当然ですけども地方移住をすればいいわけですよ。つまり地方でITをやるということが日本の若者の豊かさにつながる」

「誰もが無理なんじゃないかと笑った東成瀬村でのIT企業設立も、ふたを開けてみれば1年でこの人数ですよ!ね!!」

近藤社長がなるテックを立ち上げたのは、コロナ禍の2021年です。

近藤代表
「私は5年で100名のプロフェッショナル集団をこの東成瀬村の地で実現したいと考えておりますが、10年後にはなるテックを1,000人にするつもりです」

当時村長だった佐々木哲男氏にIT企業の設立を持ちかけ、村が出資する第3セクターとしてなるテックが誕生しました。

佐々木哲男前村長
「国でも地方移住を考えて推奨していればある程度の財源(交付税措置)もあるし」「大きな期待感もあったというのが事実です」「果たして近藤社長が言ったようなことが本当に可能なのかというと多少は心配だったんですが」

近藤社長
「若者で(移住して)農業やりたい人なんてごく一部だったら、ITとかそういうことをやらないといけないよねというような話とか(村と)建設的な話がすごく前に進んでいった」「東成瀬村で地方創生の大きなモデルを作ることによって、全国的にも地方創生は当たり前だとかかっこいいとかそう思われるような状態を作りたい」

ITはどこへ?収入の主体は公金

IT企業をうたう、なるテック。

しかし事業内容・決算内容を見ると、我々がイメージするIT企業とは大きく姿が異なります。

近藤社長
「第3期は売上の総額が2憶9,500万円で当期純利益が12万円、つまりは今期もとんとん黒字というところに着地させている」

会社の設立から3年が経過しましたが、収益構造を見ると地域おこし協力隊の委託費など補助金が主な収入源で、売り上げに占める割合は8割を超えています。

近藤社長
「補助金に寄らない事業運営体勢の確立というのが最重点テーマになっていまして、それはすなわり民間企業からの売り上げで」「利益をしっかりあげられる状態をつくること、すなわちここに村に根差したIT産業を立ち上がったという状態をつくること(が課題)」

理念との矛盾は?隊員の二拠点生活

過疎の豪雪地帯であるにも関わらず、年間30人近くを採用してきた「なるテック」。

東京一極集中の是正を掲げ「二拠点生活の実現」を誘い文句に採用数を伸ばしてきました。

近藤純光社長のYouTube
女性
「当社に入職するとなると地域おこし協力隊にも任命されることになります。そのため住民票を東成瀬村に移して住居を構えていただくことが必須要件となっています」
男性
「メンバーの中には、でもあれなんですよね。住民票は東成瀬村にあるけれどもテレワークをしたり、仕事内容や状況にもよりますけれどもリゾートワークをしたりというか移動しながら働くメンバーもいるわけですよね」
近藤社長
「そうですね。二拠点生活で住居を2か所に構えているメンバーもいますし、3週間スリランカに旅行に行っていたメンバーもいるくらいですね」

「都市部の人材を地方に移住・定住させ地域の担い手になること」を理念として掲げる地域おこし協力隊。

しかし東成瀬村では「形式的な居住」になりかねない二拠点生活を認めています。

秋田放送は隊員の居住実態を調べるため、去年10月に採用され、二拠点生活を公言している隊員の活動報告書、月報を取り寄せました。

川口大介 記者
「報告書を見ると、隊員2人は今年1月以降、村にいた日数は月に1日だけ。半年間の合計だと16日間です。また、報告書に活動内容を記載する欄は1行程度で、勤務時間を記載する必要はありません」

また、村のPRが任務だというユーチューバーの女性隊員(委嘱)に話を聞くことができました。

「東京での仕事がとても多いので、仕事があるタイミングで東京に出て行く感じになります。動画の撮影に関しては、ちょっとどういう感じで進めていこうかなって悩んだこともありまして」

女性隊員は月に1週間以上、村に滞在していると話しましたが、活動報告書の提出義務がなく、発言を裏付けることができませんでした。

村にある古民家のリフォームを題材に動画を配信しているという女性隊員。

冬の間、この古民家に定期的に立ち入った形跡や動画は確認できませんでした。

「ちょっと動画の本数が少なかったかなとは思います。寒すぎてちょっと冬はあまり進まなかったんですけど」

定住・居住をうたう、地域おこし協力隊。

その隊員の報酬や活動費は国からの交付金、つまり我々の税金から支出されています。

隊員の二拠点生活という居住実態について問題はないのか?

専門家は財政上の問題点を指摘します。

平井太郎教授
「現在の制度上は住民票異動っていうこの事実が交付税措置と関連していて」「居住実態がないとなるとですね。『(交付金を)戻せ』というふうな話が絶対財政当局から来るので」「なかなか今すぐもろ手を挙げてOKですというふうにしては言いづらいところ」

協力隊制度の改善などに長年携わってきた弘前大学の平井太郎教授は、問題点を指摘しつつも東成瀬村と協力隊については「定住未満・観光以上で特定の地域と関わり続ける非常に挑戦的な取り組みだ」と評価しました。

平井教授
「現実問題として、年間10万人が東京に入って(転入して)いく中で、数千人が(協力隊として地方に)出ていたとしても、砂漠の一滴みたいなもので、人数だけで評価していてはなかなか難しいところがあるし、定住率だけでも難しいんじゃないか」「関係人口をまさに協力隊という形で先取りをしてやっていただいているその実質を(東成瀬で)見せていただいている」

人口減少に立ち向かう東成瀬戦略は「支えてもらう」関係人口づくり

今年度の当初予算案について話し合う、東成瀬村の議会。

備前博和村長
「地域おこし協力隊事業は、なるテックとの民間連携隊員を引き続き採用しつつ」

地域おこし協力隊の事業費として、村では年間予算の1割を超える約4億8,400万円の予算案が提出され、可決されました。

備前博和村長
「うちの方(東成瀬村)って何もないじゃないですか。雪しかない」「ある程度産業を興しておいて、村の取り組みに対して移住して手伝ってほしい、そういうスタイルの方が、これからは当たり前なのかなと考えていて」

地域おこし協力隊に億単位の巨額を投じる東成瀬村。

備前博和村長は、村を存続させるための生き残り策だと話します。

備前博和村長
「東成瀬村がこれからどこかと合併するのは基本無理な状況になっていますよね。そうなると存続するためにはどうするんだという話になりますよね。そうすれば人口は減少していく村ということを分かっているので、それにどう対処していくかという話なんですよ。人口増やすとかいうそういう話ではない。どのようにしてこの自治体を維持するかという話」
「一年中通して(移住者が東成瀬村に)いるというのは厳しいんじゃないかと思っているので」
「冬だけ移住、夏だけ移住とか」
「そういう人方でこの村を支えてもらうしかない」
「最終的にはそれしかない」
「それをしっかり認知した上で人口減少対策を進めていかないとダメだと。(人口を)増やすということは無理です」

過疎が進んだ地域をどうやって維持?記者が解説

取材を担当した川口大介記者とお伝えします。

なぜ今回東成瀬村の地域おこし協力隊を取り上げたのですか?

川口記者
「取材自体はいまから3年前、2022年の7月、なるテックの立ち上げから8か月目の時点から始めました。人口2000人台の村にIT企業が設立されるという目新しさもありましたが、当初から二拠点生活をしている隊員がいたことから『定住』や『地域に根ざした人材の定着』を目指す協力隊制度との乖離が気になっていました。ただ、会社が立ち上がったばかりということもあり、会社の業績を含めて経過を注視する必要があると考え、継続して取材をしてきました」

地域おこし協力隊と聞くと、移住・定住というイメージがありますので、二拠点や居住実態がない隊員の存在は確かに違和感を覚えますね。

川口記者
「地域おこし協力隊は、都市部から地方へ人材を移住・定住させること。また、移住した先で地域課題の解決や活性化を担います。一方で二拠点生活では『形式的な居住』や『通い』となり、協力隊制度の理念や目的とする『定住』とは呼べず、また、地域との関わりや関係構築も希薄となります」
「県外にある協力隊の受け入れ団体の責任者に二拠点の是非について質問したところ『制度そのものの根幹が揺らぐ』と話していました」
「一方で、二拠点だからこそ豊富な人脈やネットワークを持つ人材や、フォロワー数が数十万人いるユーチューバーが東成瀬村に来てくれた、という実態・実績もあります」

東成瀬村の備前村長がインタビューで吐露した村の実情や課題も過疎地が抱える深刻な問題だと受け止めました。
約3年間の取材を通じて感じたことがあれば教えてください。

川口記者
「目立った産業のない村にIT企業を設立して雇用の受け皿とするアイデアや、定住という概念に縛られずに関係人口で村を維持しようという取り組み自体には賛同できるところもあります」
「これまで協力隊は任期を終えた隊員の定住、いわゆる定着率で成果として測られてきましたが、東成瀬村のような場合は『完全移住』ではなく『関係人口』的な関わりを認める仕組みに改めるか、もしくは新たな制度を立ち上げるといった検討も必要かもしれません」
「秋田にとって人口減少とその対策は大きな関心事です。若者の流出を防いだり移住者を呼びこんだりすることだけに目が向けられがちですが、どうすれば過疎が進んだ地域を維持することができるのか?新たな手法を考える工夫や知恵が必要です」