ABS秋田放送

2015年1月24日

初場所

今年の大相撲が始まった。
初日から満員札止めの盛況ぶり。
懸賞も130本という幸先の良い滑り出しだ。
一時は八百長騒動などで人気がガタオチだった相撲もこのところは相撲女子、大相撲の観戦を楽しむ女子たちも増えて賑わいを復活させつつあると思う。
その女子の人気を集めているのが、若手の二人、前頭三枚目の遠藤と、関脇逸ノ城だろう。
特に逸ノ城は、昨年の秋場所に入幕してすでに関脇というスピード出世だ。角界初の遊牧民出身で、馬に乗ることで鍛えられた強靭な足腰と生まれもっての巨体が魅力。幼さが残る笑顔も人気のひとつだ。

ただ、時おりやってしまう立ち会いの変化はいただけない。勝ち星を稼ぎたくなったときや勝ち越しがかかったときなど、ふと心の弱さが出てしまうのか、変化して簡単に勝ちを求めようとする。それには親方衆も苦言を呈しているし、変化で勝った取組にはたとえ逸ノ城でも拍手はまばらだ。

相撲ファンは、押して攻めて行く真っ向勝負が好きだと思う。突っ張って、あるいはしっかりと組んで、土俵際まで追い詰めていってほしいのだ。向かってきた者を体を引いてはたくのも変化と同じくらい嫌われる。苦手な相手でもその取組に向き合ってもらいたいのだ。変化や引き技は心の弱さを見せつけられるように思うのかもしれない。

一方で、相撲には『いなす』という技もある。攻めてきた相手の体をかわしながら払い、その力を横にずらすというものだ。相手はその攻撃の力をコントロールできずバランスを崩し、時にはそのまま決まり手となる場合もあるが、多くは、流れの中で起きる一瞬のかわし技だ。引き技は相手の意表をつくものだが、いなしにはその先の自分の攻めが見えている。この取組を自分の間合いに持っていくための閃きだ。だからいなす姿には、チャンバラでひらりと身をかわすのと同じかっこよさがあると私は思う。心の余裕が見えるのだ。

今場所三日目、逸ノ城にようやく初日が出た。四日目大関琴将菊戦、立ち会いの変化で勝つ。これで星は五分となったが、会場からはブーイングだった。

五日目。対高安戦。
前日のプーイングが頭にあったのか、高安に対して真っ向から当たった逸ノ城だったが、高安は逸ノ城の心を読むかのようにその巨体をさらりといなす。送り出し。高安の勝ち。勝負は初めからあった。
いなすということはそんなに簡単なことではない。踏ん張っていない分だけ、ひとつ間違うと相手の攻撃をまともに食らい命取りになる。

土俵と相手が見えていて、自分の間合いで取るいくつかの決まり手を持ち合わせ、そのための稽古がよく積まれていなければ上手くいなせないものだと思う。
逸ノ城はまだまだこれからだ。けれど恵まれた体だし、大物の片鱗は見えている。これからも十分期待に応えてくれるだろう。
土俵の中で人生を学ぶときがある。
生きていると逸ノ城のような、大きな難題にぶつかるときがある。
真っ向から立ち向かっても歯が立たないこともあるだろう。でも、変化はしたくない。いくつもの負けを経験しながら、それでも鍛練を忘れなければ、やがて難題をさらりといなす力もつけられるかもしれない。まずは、正面からきちんと向かってみることだ。

明日は千秋楽。
逸ノ城の取組はどうか。
私の明日の取組は?どうだろうか。

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